あれだけ楽器が鳴る集中した空間で、微かに聞こえた異音。
振り向いた瞬間、崩れるように倒れた…の身体。

「俺にこれだけ心配かけさせるとは…いい度胸だ」

病院へ向かう車中で聞こえていた、こちらが息苦しくなるまでの異音が消えたことが…どれだけ自分を安心させたか。

幼い頃は今よりも発作を起こす頻度が高く、そのたびに自分を責めたものだ。
もう少し、見ていてやればよかった…と。

「…自分を大事にしろと、言っただろう」

汗で張り付いた前髪を指でのけ、ポケットから取り出したハンカチで拭ってやる。

「無理、させた……
すまん

搾り出すように呟いた声が、病院独特の静かな空間に響く。
連日、俺の妥協しないスケジュールに、この小さな身体でついてきてくれた。
そのおかげで、全体がまとまったが…その代償が、お前だというのならば、認めねばならない。

「…今回は、蓬生の言うとおりにすべきだった」



――― あかんよ、それじゃあ誰かが倒れてまう

ハッ!そんな弱いヤツ、この俺の下にいるはずねぇだろう ―――

――― せやけど、心と身体は違うんよ、千秋

心が強けりゃ、身体もついてくる ―――




「部長失格だ…」

が眠っていて、蓬生がいないからこそ…零れた本音。
けれど、そんな俺の手に…熱いものが触れた。

…失格、て…

…お前…」

ごめ…なさ…

「いい、喋るな。まだ熱が高い」

高熱で混濁している様は、瞳からもわかる。

あと、少し…

「喋るな…」

あ、たし…が、乱し…た

天井を向いたまま堰を切ったようにの瞳から涙が溢れ、頬を伝って枕へと落ちていく。

ごめ…ね…

「アホ言うな…悪いんは、俺や。お前やない」

添えられた手をぐっと握りしめ、その手に額をつけ…謝罪を口にする。

………めん





――― 心と身体は違うんよ、千秋



あぁ、そうだ…蓬生。
お前の言うとおりだ。

こいつは、こんなになっていても…心は強い
だが、俺は…身体は強くても、心が弱い…






「ごめん…」

気を失うよう眠ったの頬に残る涙の跡を指で拭い、傍らにあった椅子に身体を預ける。

「強く…もっと、強く」

以前も、こんな風に思ったことがある。
あれもやはり…病室だったな。

そんなことを考えながら、俺は…蓬生が戻るのを、待った。





BACK   45.許されない



最後の以前も…ってのは、蓬生が幼い頃の話です(勿論捏造)
本当に雰囲気だけで読むような話ですいません。
45.許されないに続きます。
2010/11/14